東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)132号 判決
一 請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 請求原因三の1の主張について
原告は、本件意匠の構成(一)ないし(四)のうち(二)について、審決は外周胴面、内周胴面における透孔の形状の差異を看過し、誤つて単一の楕円形と認定したと主張する。
しかしながら、当事者間に争いのない審決の理由によれば、審決は、正面中央の透孔につき、本件意匠について「楕円形の透孔を設け」と認定し、引用例の意匠についても「楕円形の透孔を設け」と認定した上、「両意匠を比較検討してみるに、両者には、長さと直径の比を除き、ほとんど差らしきものは見当らず、その態様は前記の差以外は略同一程度に酷似しているものといわなければならない。」として、意匠法第三条第一項第三号の規定に該当する意匠であるとしているのであるから、審決が、ブツシユの全体の長さと直径の比を除く部分、すなわち、原告の主張する外周胴面、内周胴面における透孔の形状についての差異は略同一程度に酷似していると判断していることは明らかであつて、この差異を審決が看過しているとするのは当らない。
2 請求原因三の2の主張について
原告は、引用例の意匠の正面中央の透孔はその主張の(二)のようなものであるのに、審決はこれを楕円形と誤つて認定していると主張する。
しかしながら成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例の図面は斜視図であつて、開口28については、別紙図面(二)のとおり、外周胴面側の全体輪かくと内周胴面側の一部輪かくとが示されていて、この開口28の形状が楕円形状であることは明らかであるから、審決の認定に誤りはなく、原告の右主張は当らない。
3 請求原因三の3の主張について
原告は、本件意匠と引用例の意匠とでは、その主張(一)(二)の差があるにもかかわらず、審決は両者を類似の意匠と判断しているから、その判断は誤りであると主張する。
しかしながら、
(一) 成立に争いのない甲第四号証(本件意匠の意匠登録願書)によれば、本件意匠に係る物品は、「動力伝導用ローラチエンにおける両側リンクプレートを連結し、内側に連結ピンが嵌挿され、外側にローラが遊嵌されるものであり、正面図の中央部に表われる孔は、油溜めの役目をする。」(「意匠に係る物品の説明」)ものであることが認められる。
(二) そして、この認定事実と通常の動力伝導用のローラチエンのブツシユの一例であることについて争いのない検甲第一号証(登録第三九七二四一号意匠の実施品)、同第二号証と本件意匠及び引用例の意匠を表わしたものであることについて争いのない別紙図面(〔編註〕省略)(一)及び図面(二)と弁論の全趣旨とによれば、
(1) 本件意匠と引用例の意匠とは、いずれも、円筒形状を全体の基本形状とし、その正面中央に、一定形状の透孔(油溜め用のものであり、以下「中央の透孔」という。)とこの透孔の中心を長手方向に通る一本の細い縦筋状の透孔とを形成した形状の意匠に係るものである点において共通しており、ただ、この二つの透孔の結合形状、ことに中央の透孔の形状において、これを子細にみるときは、両者に原告主張のような差異が存するものであること、
(2) ローラチエンのブツシユには、各種の寸法のものがあるが、大きいものでも、さして大きいものはなく(円筒の長さ約六〇ミリメートルまでのものにとどまる。)、そのうち、とりわけ大型でないものにおいては、本件意匠と引用例の意匠を表わしたもの相互間に、円筒形状の長さと直径、中央の透孔の内周胴面側、外周胴面側における周辺形状、寸法比率、その他に、子細に計測対比するとき差異が認められるとしても、その差異は、物品の性質、態様に徴し、微弱かつ部分的な差異といわざるをえず、需要者において混同のおそれがあることが認められる。
そうすると、両意匠は、類似しているものといわざるをえないから、原告の右主張は採用することができない。
なお、原告の提出している甲第五号証、第六号証は、いずれも本件には適切でなく、右の判断を左右しうるものではない。
三 そうすれば、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとする。